椎名誠『銀座のカラス』

銀座のカラス〈上〉 (朝日文芸文庫)

銀座のカラス〈上〉 (朝日文芸文庫)

銀座のカラス〈下〉 (新潮文庫)

銀座のカラス〈下〉 (新潮文庫)

 最近、少し古い作家の作品ばかり読んでいる。少し古いというのは例えば1800年代後半から1900年代前半あたりだろうか。別に「昔の作品はこんなに良いのに、最近のは駄目だなぁ」なんて思っているわけじゃない。ただ、読んでみたい作品がたくさんあって、なかなか現代の作品にまで手が回らないのだ。

 それでも時々現代の作品に手を出す時がある。理由なんて無いが、最近の本を読みたい衝動に駆られるのだ。そして手に取った一つの本がこの『銀座のカラス(上下)』だ。椎名誠はエッセイとSFのイメージがあるのだけど、どうもこの作品はそうじゃないみたいだ、というのが興味をそそった。図書館で借りて、家でページを開いて苦笑した。1994年発行だった。やっぱりちょっと古いのね、と妙な愛着のようなものを感じる。

この作品は椎名誠氏の私小説的なものになっている。とはいえ、登場人物は架空の人物が割り当てられていて、普通の小説としても読める。というよりも、そう読むのが正解だと思う。登場人物を見て「これが椎名誠か」なんて考えず、生き生きと小説に生きる登場人物として捕らえたほうが良い。実際彼らは生々しく、必死に生きている。不満があったり、葛藤があったり、反撥したり、警察に捕まったり……。

 読んでいて「俺はこれくらいがんばって生きているかな」なんて考えてしまった。別に彼らがスーパーマンのように華やかな人生を送っているわけではない。失敗したり、諦めたりもする。しかし、少し落ち込んでもちゃんと立ち直る。人間関係がうまくいかないこともあるが、これも諦めたりしつつも、模索して状況を打開していこうとする。

 銀座の小さな出版社に勤める男の泥臭い生き様がとても良く表現されていて、椎名誠氏の表現力の豊かさを感じる作品になっている。

 彼のエッセイが好きな人は読んでみるといいだろう。